つゆで始まる暑い季節。

草木が茂り、イネが伸び成熟したりする。

六・七・八の三か月。

俺は夢を見ていた・・・
誰かが俺に語りかけてくる…
誰だ?誰なんだ?

(早く…いて…さん)

言葉が途切れ途切れに聞こえる…

何かを俺に伝えるように・・・・・・

「ハッ!」
俺は目を覚ました。木製のイスの上で寝ていたので背中が痛い。

夢を見ていた…ような気がする。しかし夢の内容は覚えていない…
しばらく俺はまどろんでいた…

今日も船着場の前に来ていた。そしてベンチに腰をかけ、海を見た…

青く、どこまでも続いている海。朝の日差しの中、俺はそんなことを考えていた…

「あっ!お兄さんだ!お〜い!」

そんな詩人に耽っている俺を邪魔する声が・・・昨日の少女だ。

「何だ、お前か。俺に何か用か?」

「ウン!勿論!はい、これ!」
元気そうに鞄の中から人形を取り出した。しかも見覚えがある奴を。
「お前、どうしたんだ、これ?」

「昨日、お兄さんが落としたものですよ。昨日返そうと思ってたのに私忘れちゃって…にはは・・・」

「馬鹿だなお前…」
「うん、美鈴ちんお馬鹿だから…にはは。」
少女が苦笑しながら頭を掻く。

「お前、美鈴て名前か?」
「うん。神尾 美鈴。美鈴ちんだよ!にはは!」
「そうか、俺は住人だ」
って何言ってんだ俺…
「住人さん?いい名前ですね。」
自分の名前を誉められたことがあまり無いので妙に照れくさい気がする。
「美鈴って名前もいいんじゃないか?綺麗な名前で。」
「にはは、ありがとう。住人さん。」
俺のことをすでに名前で読んでるし…じゃあ俺も。
「どういたしまして、美鈴。」
ペコリと、紳士のように優雅にお辞儀をする。
また意味不明な行動してるよ、おれ…
「所で住人さん、昨日もここに居たよね?何やってるの?知りたいな?知りたいな?」
笑いながら俺に近づいてくる。正直怖い…
「そんなの知ってどうすんだ?べつにたいしたことじゃないぞ?」
「それでもいいよ。私、住人さんのこと、知りたいの。」
頬を赤らめしゃべる美鈴に少しドキッとした…たぶん
初心な少女をこれ以上困らせるのは正直男が廃る。
「人形劇で、金を稼いでるんだ。ただそれだけだ。」
「へ〜!住人さん、旅人さん?カッコイイ!」
「所でお前、制服を着て、学校に行くのか?」
「へっ?あぁぁぁ!私登校途中!このままじゃ遅刻しちゃうぅ!美鈴ちんピンチ!」
そういい残し、彼女は駆け出した。
途中で彼女は止まり、此方に手を振っていた。
俺も振り替えす。
そして、彼女はまた走りだしていった。

朝の日差しが上り始めた。
熱くなるのはこれからだ。

続く

睡眠中に生活経験のごとく生起して目覚めると同時にはかなく消える、一種の幻覚。

幻覚
幻覚
幻覚

7/15
夏休みに入ってしばらく経った。今日も天気は晴れ。とってもウキウキな気分。
今日は何にも用事は無いけど町をブラブラ歩いてました。美鈴ちん暇人・・・
そしたら、大きな荷物を持ったお兄さんが私の前を走って行きました。
ポトリ・・・
何か音がして見てみると、足元に恐竜のぬいぐるみが落ちていました。
あ、あの人落としたんだ!
そしてその人が走った方向を見ると。




誰もいないよ・・・美鈴ちんピンチ!
早く探してコレを届けないと!



それからしばらく経った・・・
結局そのお兄さんは見つけられなかった・・・
どうせココまで来たから海でも見ようと思って船着場のあたりに行きました。
すると
あのお兄さんが居ました!
私は走って、走って、その人の所に向かいました。
そしたら・・・

バタン!
少女は俺の目の前で派手な音を立てて転んだ・・・大丈夫か?
俺は恐る恐る近づいて声を賭ける。
「あの、大丈夫か?」
少女からは反応は無い・・・ヤバクナイカ?
すると
「がお・・・」
少女が謎の奇声を上げて立ち上がった。どうやら大丈夫らしい。
そんなことより・・・
「おい、俺に何か用か?人形劇ならお金さえ払えば見せてやるぞ?」
「人形劇?どんなの?お金払うから見せて!おねがい!」
さっきまで居た子供と同じ反応だった。





「にはは、面白かったよ!・・・はい、コレは御代」
そして少女は財布から、五百円玉を出して俺に渡す。
「じゃあね、お兄さん。ばいば〜い!」
そして少女は手を振りいつの間にか見えなくなった。
「何だったんだ?あいつ?」
そんなことを呟きながら、今日の野宿場所を考える俺だった・・・



「ふぁあぁぁぁ!」
私は大声を上げていた。だって人形を返そうとしていたのにそのまま帰って来たんだもん・・・・
はあ、美鈴ちん馬鹿・・・
明日、お兄さんに合ったら絶対返さなきゃ。

美鈴
オルタナティブ
代替可能なもの、もうひとつの可能性のこと。

俺は旅をしている。何のために何をするのか、俺はそんな出そうも無い答えを求めて旅をしている。
一人電車に揺られ町に付き、そして一稼ぎしたら出て行く。その繰り返し。
未練も何も無い。ただ何かを探している。

「・・・降りる駅間違えたな・・・」
俺はいきなり降りる駅を間違えて居た。
「しかし、何にも無いな・・・」
俺は周りを見渡すが誰もいない。ただ駅があり、自動販売機があり、そして家がある。ただの町。
「・・・仕方ない、人気があるとこまで歩くか・・・」
そして俺は歩き始める。一歩一歩前に。コンクリートの地面を蹴り、前へと・・・・

「それじゃ!楽しい人形劇の始まり始まり!」
俺は今、船着場に居る。そして目の前には小さな子供達。
俺は二体のぬいぐるみを出して劇を始める。
「今日の劇は、『羽』。それでははじまりはじまり・・・」

女の子は空を飛ぶ鳥に聞く。
「ねえ、鳥さん。どうして私には羽が無いの?」
女の子は、自分に何故羽が無いのか、それがずっと気になっていた。
「それはね?自分の居るべきところにとどめるためだよ」
鳥は穏やかに、そして透き通った声でしゃべる。
自分の居場所。俺は・・・居場所なんてあるのだろうか?

俺は何時も母さんと一緒だった。母さんは優しくて・・・とても大好きだった。
ある日母さんが俺に人形劇を見せてくれた。俺は夢中になって見ていた。人形が動き、母さんの優しい声が、俺を癒してくれた・・・

子供達は口々に「面白かった」、「またやってね」といって笑っていた。
俺はそんな笑顔を見送り手を振り、今日の報酬を見た。
今日の報酬
100円=四枚
500円=一枚
十円=五枚
結構もらった。
「ラーメンセットまであと少しだな・・・」
そんなことをポツリとこぼしていると不意に頭が重たくなる。
「何だ?」
俺は不思議に思い、手を頭の方へ・・・
「く〜〜〜」という泣き声が聞こえた
「ウミネコか・・・」
すっかり俺の頭に居座って居る。正直重い・・・
ウミネコをどかそうとするが、動かない。
首を前に振る。
ボテリと落ちた。
しかしまた俺の頭に乗ってきた。
「いい加減にしろよ・・・」俺は言いながらそのウミネコをどかそうとしたとき・・・
「みっ、みつけた〜〜〜〜〜〜!!」かなり間の抜けた声が聞こえてくる。そしてトタトタと走ってくる。何かを抱きしめながら俺の方に向かってくる・・・

今思えば、コレが彼女との最初の出会いだった・・・
続く
声が聞こえたような気がする・・・・懐かしい声が・・・・

「あの・・・大丈夫ですか?」
少女の声だ
「返事がないよ・・・・もしかして死んじゃったの・・・・」
おい、勝手に死人扱いするな
「こんな時如何したら良いんだろう・・・・やっぱ警察に知らせるのが良いのかな?」
何か話が大きくなりそうだ。このままじゃまずい。
俺は目を覚まして口を開いた。
「勝手に殺すな・・・」
「ひゃああああああ!!生き返ったああああああああああ!!」
「俺はただ寝ていただけだ・・・」
「はわわわわわわ・・・・成仏してくださいぃぃぃぃぃ!呪わないでぇぇぇぇ・・・・」
人の話をさっぱり聞いていない・・・
しかも彼女は腰が抜けてしまった様で、みっともなく後ずさりをしている。
この光景を如何現していいのか良く分からないが、一つだけ言えることがある。
「パンツ見えてるぞ・・・」
「ほへ・・・」
やっと彼女は自分の状況に気が付いた・・・・・・かに見えた
「ふええぇぇぇん!!幽霊さんにパンツ見られたあぁぁぁ」
ついに泣き出した。勘弁してくれ。何だこの子は。
しかし、大声で泣き出すとこちらも困る。
「泣くな。俺は生きてるし、パンツ見たことも謝る」
「ぐしゅ・・・ぐしゅ・・・生きてるの?・・・・」
「当たり前だ。足だって付いてるし、輪っかも付いていない」
「よかったぁぁ。生きてたんだ・・・・」
ようやく彼女の誤解を解くことが出来た。しかし変な子だ・・・

「あの、ごめんなさい!勝手に騒いじゃって・・・」
「別にいい・・・」
俺はそっけなく答えた。
「あの・・・ココで何で寝ていたんですか?」
「疲れていたから・・・」
「何でこんな所で?泊まる場所無いんですか?」
「ああ・・・」
そう、俺はいつもこうしてきた。止まる場所も無く、一人孤独に野宿をしていた。別にしばらくこの木下を寝床にしようと考えてもいた。
「もし・・・止まる場所が無かったら・・・家に止まりませんか?」
「はあ?」
思ってもいなかった。しかも、いきなり。しかし、久々に布団でも寝たい。最後に布団で寝たの何時だっけ?
「ホントに良いのか・・・」
俺はもう一度聞いた。
「うん、良いよ。それに迷惑かけちゃったし・・・」
・・・・健気だ。別に俺はその事を気にしていたわけじゃ無かったのに。
「分かった・・・君の家に泊まらせてもらうよ・・・おれは、神前 憶登・・・君は?・・・」
「私は、霧先 聖美。よろしくね、憶登さん。」
そう言って、手をさし伸ばす。握手だろう。俺はサッと手を出して聖美の手を握った。
俺は旅をしている。何故こんなことをしているのか自分でも分からない。でも何かをしようとしているのは確かだ。この、どこかに続いているはずの道を歩いていた・・・

そしてある町に着いた。

人も居る、緑もが在る、何故か懐かしい匂いがするこの町。俺は前に来たことがあるのだろうか?
分からない。考えても出てこない。何故だろう?
しかし疲れた、休もう・・・丁度良い、あそこに木が立っている。
俺は木陰に向かい歩いていく。そして俺は、冷たい風に吹かれて眠ってしまった・・・・